シャーロックは意気揚々とコートを握りしめキラキラした目で私たちを見上げている。
静かになった221bの部屋にはSirがシャッターを切る音だけが小さく音を立てていた。

「行けるわけないでしょう!?」
「どうやって説明するんだよ!」
「じけんはじけんだ!!!!」

コートをもたつきながら着ようとしているシャーロック。
コートが切れないくらいの男の子が事件だ事件だって言ったって仕方ないような気がする。

「ぼくはひとりでもいくぞ!」
「・・・・・・こんなに小さなシャーリーを独りで行かせるつもりかな?」

くるりと傘を華麗に掴んで笑う英国政府の前に、我々の拒否権など一つもなかったのは言うまでもない


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はやくしろ!」
「分かったから足をバタバタさせないで!」
「代ろうか。」
「帰りはお願いしようかしら」

意気揚々と221bを後にした私たちだけど、シャーロックの歩幅がいつもの10分の1くらいになってしまい、
全く持って事件現場にたどり着く予感がしないので、結局私がシャーロックを抱き上げて現場に向かうことになってしまった。
ジョンとシャーロックを抱える私とシャーロック。
どう見たって家族連れである。

「・・・・・・・・・、いつ産んだんだ」
「あー・・・色々あったんだけど、」
「色々はあったんだろうけどな。結婚祝いもやってないのに出産祝いは用意できないんだが。俺の目がおかしくなかったらあの探偵のDNAを完全にコピーしたような子じゃないか」
「うるさいぞ!グレゴリー!」
「ちょ、ちょっとまってくれシャーロック!」

ぴょん、と飛んで華麗に着地したシャーロックが黄色のテープを越えてずんずんスーパー裏の倉庫へ入って行ってしまう。
ジョンが慌てシャーロックの小さな背中を追いかける。



「おいおいおいおい!!!!ちょっと待て小僧!おい!いくらあの探偵の子どもでも遺体は・・・」
「落ちついてグレッグ、あれが」
「あれが?」
「その探偵さんなの」
「・・・・・・・・は?」

その表情もその意味がわからないって顔も私がしたいくらいなのに。


「なんの冗談を」


「はんにんはひだりききだ」
「なんでだ?」
「みればわかるだろう?じょん」
「わかったら僕だって探偵だ」


「冗談じゃないの」


「じょん、しぼうすいていじこくは?」
「あー・・・冷凍されたから死後硬直がずれてるな・・・だけど昨日の夜10時以降からってところかな・・・」
「いたいかいぼうしなければはっきりしたことはわからないか・・」


「早く出さなきゃ、探偵のまねごとしてるぞ」


「おとこはべーかりーしょっぷではたらいてる」
「それは分かるぞ!パンの粉だ!」
「めいすいりだ、わとそんせんせい」


「そうね、真似ごとじゃなくて本当に探偵なんだけど」
「本当に?」
「嘘だといいたいわ私も。」


「きみたちがたちばなしをしているあいだに、はんにんがわかってしまっただろう!はんにんは2ぶろっくさきのべーかりーしょっぷのしょくにんだ!」

「嘘だと言ってくれ」
「事件解決ね!グレック!」
「はやくみがらをかくほしろ!グリフィス!!!!!」
「グレッグだ!シャーロック!!!!!」

グレッグは叫んでから頭を抱えて座り込んだ。
私は朝から思考を停止させ続けてるから、もうね、なんだっていいのよ!
つまらない事件を解決してしまったシャーロックを抱えて帰路に就く。
気がつけば日が傾きだしていた。
ジョンと私に手を繋がれて歩くシャーロックは、眠くなってきたのか地面を見たまま無言。

「シャーロック?眠いの?」
「・・・・・・ねむくない」

不機嫌そうにそういったものの、221bの前に着くときには既に半分寝ているようなものだった。
ジョンがシャーロックを抱え上げて階段をあがっている途中から、もう寝息が聞こえ出していた。

「本当に子供みたいだな」
「ほんとね。」
「いつか僕は君たちの子どもをこうやって抱き上げたり手をつないで散歩したりするのかな」
「シャーロックの子供なんだから、女の子でも男の子でもジョンにすっごく懐くんでしょうね」

二人でコートとマフラーを脱がして小さな小さな靴をベッドの端に置く。
あんなに狭かったベッドに、小さなふくらみができた。

「明日になったら元に戻るかしらね」
「なってなかったら、どうしようかな」
「二人で育てる?」
「デートの誘いは断らなくちゃならなくなるから嫌かな」
「その前に子持ちの医者なんて株は暴落よ」
「シャーロックには絶対明日には元に戻ってもらわなくちゃ」

いつか癖っ毛で黒髪の、青い目をした子をここで育てるのだろうか。
そんな夢を思い描きながら忍び寄る睡魔に身を任せる。
今日はきっと素敵な夢が見られることだろう。



、おはよう」

朝、一階に降りるといつものシーツお化けがすり寄ってきてこめかみに優しいキスをくれた。
小さな探偵さんもすっごく可愛かったが、やっぱり私はこちらの方が好きかもしれない。

「おはよう、シャーロック」